Tweet 短編小説 誕生日の花をテーマに短篇小説を作成 『キンセンカの約束』 http://nspc.kojyuro.com/0112.html
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![]() 誕生花 キンセンカ 花言葉 「別れの悲しみ」、「ひそかな恋」 1月12日の誕生花はキンセンカです。キンセンカはキク科の植物で、早春から初夏にかけて太陽のように明るい橙色から黄色の花を長く咲かせ続けます。秋まきの一年草の代表種です。丈夫で育てやすい草花として親しまれています。 ![]() |
『キンセンカの約束』春の終わり、少し汗ばむ風が吹く頃。大学の構内にある小さな花壇には、鮮やかなオレンジ色のキンセンカが咲き誇っていた。陽射しを受けて輝くその花は、まるで太陽のかけらのようだった。 文学部の四年生・沙耶(さや)は、卒業論文の資料を探しに図書館へ向かう途中、ふとその花壇の前で足を止めた。 「…キンセンカ、今年も咲いてる」 彼女の声に反応するように、後ろから声がした。 「毎年、同じ時期に咲くんだよね。忘れた頃に、ちゃんと戻ってくる」 振り返ると、そこには同じゼミの同級生・悠人(ゆうと)が立っていた。穏やかな笑顔を浮かべて、花壇のキンセンカを見つめている。 「悠人くん、キンセンカ好きなの?」 「うん。祖母が育ててた花でね。子どもの頃、よく一緒に世話してた。…でも、亡くなってからは、見るたびに少し切なくなる」 沙耶は、彼の横顔を見つめながら言った。 「花言葉、知ってる?“別れの悲しみ”とか、“変わらぬ愛”とか」 「うん。でも、僕は“戻ってくる希望”って勝手に思ってる。別れがあっても、また咲くから」 その言葉が、沙耶の胸に静かに染み込んだ。 それから、二人は花壇の前でよく会うようになった。卒業論文の話、将来の夢、好きな本のこと。キンセンカの花が咲いている間だけの、特別な時間だった。 ある日、悠人がぽつりとつぶやいた。 「卒業したら、地元に戻るんだ。家業を継ぐことになってて」 沙耶は驚いた。彼が地元に帰るなんて、考えたこともなかった。 「…そっか。遠くなるね」 「うん。でも、また春になったら、キンセンカが咲く頃に戻ってくるよ。約束する」 沙耶はうなずいた。その約束が、少しだけ心を支えてくれた。 卒業式の日。沙耶は花壇の前で、悠人を待っていた。 「…来ないのかな」 そう思った瞬間、彼が息を切らして駆けてきた。 「ごめん、遅くなった!最後に、どうしても渡したくて」 彼が差し出したのは、小さな鉢植えのキンセンカだった。 「これ、君に。…来年、また咲いたら、会いに来るから」 沙耶は、涙をこらえながら笑った。 「待ってる。…絶対、咲かせるね」 それから一年。沙耶は就職して忙しい日々を送っていたが、ベランダのキンセンカだけは欠かさず世話をした。 そして春。鉢植えのキンセンカが、見事に咲いた。 その日、沙耶は大学の花壇を訪れた。懐かしい風景に、胸が高鳴る。 「…咲いてる」 キンセンカの花壇は、今年も鮮やかだった。 すると、後ろから声がした。 「やっぱり、ここに来てた」 振り返ると、悠人が立っていた。少し日焼けした顔に、変わらぬ笑顔。 「約束、守ったよ。…キンセンカが咲いたから、戻ってきた」 沙耶は、胸がいっぱいになった。 「私も、咲かせたよ。ベランダで。…ずっと待ってた」 悠人は、そっと彼女の手を握った。 「これからは、毎年じゃなくてもいい。ずっと一緒にいられたら」 沙耶はうなずいた。 「うん。キンセンカみたいに、変わらない気持ちで」 キンセンカの花が風に揺れ、二人の未来をやさしく照らしていた。 |
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1月12日の誕生花はキンセンカです。キンセンカはキク科の植物で、早春から初夏にかけて太陽のように明るい橙色から黄色の花を長く咲かせ続けます。秋まきの一年草の代表種です。丈夫で育てやすい草花として親しまれています。