Tweet 短編小説 誕生日の花をテーマに短篇小説を作成 『ヒヤシンスの約束』 http://nspc.kojyuro.com/0107.html
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![]() 誕生花 ヒヤシンス 花言葉 「嫉妬」 1月7日の誕生花はヒヤシンスです。ヒヤシンスは、チューリップやスイセンと並んで春の花壇を彩るポピュラーな植物です。庭植え、鉢植え、水耕栽培と色々な楽しみ方ができます。ラッパ状の小さな花が一斉に咲き、開花中はとても良い香りがします。 ![]() |
『ヒヤシンスの約束』 春の風が、街の角をやさしく撫でていた。駅前の花屋「フルール・ルミエール」では、色とりどりのヒヤシンスが並び、甘く切ない香りを漂わせている。 花屋で働く遥(はるか)は、ヒヤシンスの季節になると、決まって胸がざわついた。理由は、五年前の春に出会った青年・蒼(あおい)のことだった。 彼は大学の卒業式の日、花束を買いに来た。緊張した面持ちで「ヒヤシンスをください」と言ったその声が、遥の心に不思議な余韻を残した。 「ヒヤシンスには“スポーツ”って意味もあるけど、“初恋”って花言葉もあるんですよ」 そう言った遥に、蒼は少し驚いたように笑った。 「じゃあ、初恋にします。…卒業式のあと、告白するんです」 その言葉が、遥の胸に小さな灯をともした。 それから毎年、蒼はヒヤシンスの季節になると花屋に現れた。告白がうまくいったのか、恋が続いているのか、遥は聞けずにいた。ただ、彼が来るたびに、心が少しだけ温かくなるのだった。 けれど、去年の春、蒼は現れなかった。 「もう来ないのかな…」 そう思いながらも、遥はヒヤシンスを並べ続けた。香りが、彼との記憶を呼び起こすたびに、胸がきゅっと締めつけられた。 そして今年の春。ヒヤシンスが店頭に並び始めたある朝、遥は店の前で立ち止まる一人の男性に気づいた。 「…蒼さん?」 少し痩せたように見える彼は、変わらぬ優しい目で遥を見つめた。 「久しぶりですね。…去年は来られなくて、ごめんなさい」 遥は言葉が出なかった。ただ、ヒヤシンスの香りが二人の間を満たしていた。 「実は、去年の春…彼女と別れたんです。長く続いたけど、最後はお互いの道を選びました」 遥は静かにうなずいた。彼の表情には、悲しみよりも、何かを乗り越えた穏やかさがあった。 「それで、今年は…ヒヤシンスを買いに来たんです。初恋の意味で」 「…誰に贈るんですか?」 蒼は少し照れたように笑った。 「遥さんに、です。…ずっと、あなたのことが気になってました。毎年会えるのが楽しみで。でも、恋人がいたから、言えなかった」 遥の胸に、ヒヤシンスの香りが深く染み込んでいくようだった。 「私も…毎年、あなたが来るのを待ってました」 二人は、ヒヤシンスの前で立ち尽くした。風が花の香りを運び、春の光が二人を包んでいた。 「じゃあ、今年のヒヤシンスは…初恋じゃなくて、始まりの花ですね」 遥がそう言うと、蒼はうなずいた。 「そうですね。新しい恋の始まりに」 ヒヤシンスの花束を手にした蒼は、遥の手をそっと握った。指先に伝わるぬくもりが、五年分の想いを優しく溶かしていく。 その日から、二人は少しずつ距離を縮めていった。花屋の閉店後に散歩をしたり、季節の花を一緒に選んだり。遥の世界に、蒼の笑顔が自然に溶け込んでいった。 そして一年後の春。花屋の前には、今年もヒヤシンスが並んでいた。 「遥さん、今年もヒヤシンスをください」 「もちろん。…花言葉は?」 蒼は微笑んだ。 「“永遠の愛”って意味もあるらしいですよ」 遥は笑って、ヒヤシンスの花束を手渡した。 「じゃあ、今年はそれで」 ヒヤシンスの香りが、二人の未来をそっと祝福していた。 |
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1月7日の誕生花はヒヤシンスです。ヒヤシンスは、チューリップやスイセンと並んで春の花壇を彩るポピュラーな植物です。庭植え、鉢植え、水耕栽培と色々な楽しみ方ができます。ラッパ状の小さな花が一斉に咲き、開花中はとても良い香りがします。