Tweet 短編小説 誕生日の花をテーマに短篇小説を作成 「白い花が告げた春」 http://nspc.kojyuro.com/0101.html
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50
![]() 誕生花 スノードロップ 花言葉 「希望」、「なぐさめ」 1月1日の誕生花はスノードロップです。寒さの中で発芽し、春先に次々と花を咲かせるスノードロップは元日の誕生花でもあります。スノードロップは「春を告げる花」としてヨーロッパで愛されており、スコットランドでは、お正月の前にスノードロップの花を見つけると次の年は幸運になれるという言い伝えがあります。 ![]() |
「白い花が告げた春」その年の冬は、いつもより長く感じた。 「春になったら、ちゃんと咲いてくれるかな」 自分に言い聞かせるように佳乃はつぶやく。それは花に語りかけるよりも、自分を励ますための言葉だった。 彼女がスノウドロップを植えたのは、ある人の言葉がきっかけだった。 三年前、大学の卒業を控えた頃。佳乃は雪の積もるキャンパスで、ある青年と出会った。 その日、佳乃は一眼レフの使い方も分からず、レンズを外しては雪に落とすほどの初心者だった。湊は笑いながらそっとレンズを拭き、言った。 「大丈夫。雪は冷たいけど、悪いことばかりじゃない。ほら、溶けるときに春を呼ぶから」 その瞬間、佳乃は湊の指先に触れた。冷たいのに、どこか温かかった。 「もし春まで頑張れたら、スノウドロップを一緒に見に行こう」 その約束はただの気まぐれかもしれない。けれど佳乃の胸には、小さな灯が灯った。 春を待たず、湊は留学先に旅立った。 それでも佳乃はスノウドロップを忘れられなかった。 次の春が来たころ、佳乃は転勤を告げられた。地方の支社への異動。正直、不安は大きかったが、少しの期待もあった。雪の多い町なら、スノウドロップにもう一度会える気がしたからだ。 赴任先の寮は、少し古びた木造の建物だった。 「写真、撮ってるんですか?」 思わず声をかけた瞬間、相手がフードを外した。 「…佳乃?」 信じられない光景だった。湊は変わらぬ穏やかな目で笑った。彼のすぐ傍らには、雪を割って咲いたスノウドロップの花が一輪、凛として立っていた。 湊はこの町に帰ってきていた。 佳乃は毎日、仕事の帰りに湊のもとへ立ち寄った。彼の撮った雪景色の写真を見せてもらいながら、少しずつ言葉を交わした。 ある日、湊が言った。 「スノウドロップって、花言葉知ってる?」 「確か…希望とか、慰め、だったかな」 「もうひとつあるんだ。再会、だよ」 佳乃は顔を上げた。 春の足音が聞こえるようになった頃、二人は雪解けの小川のそばを歩いた。 「ありがとう」 佳乃は答えた。 二人の足もとには、スノウドロップの白い花が咲いていた。 冷たい風の中で、湊の指先が佳乃の手に触れた。あの日と同じ、少し冷たい感触。 春の光が、二人を包みこんだ。 |
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50
1月1日の誕生花はスノードロップです。寒さの中で発芽し、春先に次々と花を咲かせるスノードロップは元日の誕生花でもあります。スノードロップは「春を告げる花」としてヨーロッパで愛されており、スコットランドでは、お正月の前にスノードロップの花を見つけると次の年は幸運になれるという言い伝えがあります。