Tweet 短編小説 誕生日の花をテーマに短篇小説を作成 「白い花が告げた春」 http://nspc.kojyuro.com/0101.html
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スノードロップの花言葉や誕生花・特徴・由来・英名など一挙紹介!
誕生花 スノードロップ
花言葉 「希望」、「なぐさめ」

1月1日の誕生花はスノードロップです。寒さの中で発芽し、春先に次々と花を咲かせるスノードロップは元日の誕生花でもあります。スノードロップは「春を告げる花」としてヨーロッパで愛されており、スコットランドでは、お正月の前にスノードロップの花を見つけると次の年は幸運になれるという言い伝えがあります。
スノードロップの魅力・品種の違いnivalisとelwesii|山崎造園(兵庫県宍粟市山崎町高所583-1)

「白い花が告げた春」

その年の冬は、いつもより長く感じた。
朝起きるたび、窓の外には白い雪が降り続けている。氷のような空気の中で、佳乃は小さな花壇に視線を落とした。そこには、昨日の晩に植えたばかりの球根が眠っている。スノウドロップ――雪の中でも真っ先に花を咲かせる、春告げの花。

「春になったら、ちゃんと咲いてくれるかな」

自分に言い聞かせるように佳乃はつぶやく。それは花に語りかけるよりも、自分を励ますための言葉だった。

彼女がスノウドロップを植えたのは、ある人の言葉がきっかけだった。


三年前、大学の卒業を控えた頃。佳乃は雪の積もるキャンパスで、ある青年と出会った。
名前は湊。写真部の先輩で、冬になると決まって雪景色を撮りに出かけていた。

その日、佳乃は一眼レフの使い方も分からず、レンズを外しては雪に落とすほどの初心者だった。湊は笑いながらそっとレンズを拭き、言った。

「大丈夫。雪は冷たいけど、悪いことばかりじゃない。ほら、溶けるときに春を呼ぶから」

その瞬間、佳乃は湊の指先に触れた。冷たいのに、どこか温かかった。
湊は続けた。

「もし春まで頑張れたら、スノウドロップを一緒に見に行こう」

その約束はただの気まぐれかもしれない。けれど佳乃の胸には、小さな灯が灯った。


春を待たず、湊は留学先に旅立った。
佳乃は何度かメッセージを送ったが、やがて返信は途絶えた。
理由はわからなかった。ただ、彼の心の奥に触れられない現実を、雪のように静かに受け入れるしかなかった。

それでも佳乃はスノウドロップを忘れられなかった。
卒業して社会人になっても、毎年冬になると球根を植える。そのたび、胸の奥で彼の声がよみがえった。
「春を呼ぶ花だよ」


次の春が来たころ、佳乃は転勤を告げられた。地方の支社への異動。正直、不安は大きかったが、少しの期待もあった。雪の多い町なら、スノウドロップにもう一度会える気がしたからだ。

赴任先の寮は、少し古びた木造の建物だった。
庭にはまだ雪が残り、風が胸を刺すように冷たい。荷物を運び込みながらふと目をやると、隣の棟の前に誰かがしゃがみこんでいた。フードを被ったその人は、雪をかき分けて何かを撮影しているようだった。

「写真、撮ってるんですか?」

思わず声をかけた瞬間、相手がフードを外した。
それは――湊だった。

「…佳乃?」

信じられない光景だった。湊は変わらぬ穏やかな目で笑った。彼のすぐ傍らには、雪を割って咲いたスノウドロップの花が一輪、凛として立っていた。


湊はこの町に帰ってきていた。
留学先で体を壊し、療養のために故郷に戻ったのだという。
「ゆっくりでいいから、自分のペースで写真を撮ろうと思ってさ」
その言葉には、どこか諦めと新しい決意が混じっていた。

佳乃は毎日、仕事の帰りに湊のもとへ立ち寄った。彼の撮った雪景色の写真を見せてもらいながら、少しずつ言葉を交わした。
沈黙が重なっても、不思議と苦にならなかった。雪が降る音、遠くで揺れる木の影、それらすべてが二人の会話の一部のように感じられた。

ある日、湊が言った。

「スノウドロップって、花言葉知ってる?」

「確か…希望とか、慰め、だったかな」

「もうひとつあるんだ。再会、だよ」

佳乃は顔を上げた。
その瞳に映る彼の笑顔は、あの日と同じ優しさを湛えていた。


春の足音が聞こえるようになった頃、二人は雪解けの小川のそばを歩いた。
湊は静かに立ち止まり、カメラを構える。
ファインダー越しに見えるのは、花々が顔を出し始めた地面と、柔らかな日差し。カメラのシャッター音が、冬を締めくくるように響いた。

「ありがとう」
湊がシャッターを下ろしたあと、小さく言った。
「君が教えてくれたんだ。春を待つことの意味を」

佳乃は答えた。
「もう、待たなくてもいいよ。春はもう、ここにあるから」

二人の足もとには、スノウドロップの白い花が咲いていた。
その花弁は雪よりも淡く、けれど確かな温もりを抱いていた。

冷たい風の中で、湊の指先が佳乃の手に触れた。あの日と同じ、少し冷たい感触。
けれど今度は、確かに握り返すことができた。

春の光が、二人を包みこんだ。

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1月1日 誕生花|スノードロップ

スノードロップ 白い花 地植え

Photo by ぐれこさん@GreenSnap

誕生花
スノードロップ
花言葉
「希望」、「なぐさめ」

1月1日の誕生花はスノードロップです。寒さの中で発芽し、春先に次々と花を咲かせるスノードロップは元日の誕生花でもあります。スノードロップは「春を告げる花」としてヨーロッパで愛されており、スコットランドでは、お正月の前にスノードロップの花を見つけると次の年は幸運になれるという言い伝えがあります。

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